去年の東京小児科医会で私は初耳だったんですが、日本の子どもにくる病が増えているそうです。今年の日本小児科学会でもそういう話題があったので、今日はその話をしようと思います。
骨の強度を保つカルシウムの調節には、ビタミンDが必要です。ビタミンDは小腸で食物からのカルシウムとリンの吸収を促進し、腎臓で尿中のカルシウムとリンの再吸収を促進します。
表皮細胞、造血細胞などいろいろな細胞の増殖と分化に関与しますが、骨を壊してカルシウム濃度を上げる破骨細胞の形成と分化も促進します。だからビタミンDが不足するとカルシウムの調節能に支障をきたし、カルシウム不足、くる病、骨粗鬆症の原因になります。
ビタミンDは脂溶性ビタミンで、こういったものに多く含まれます。
サケ、サンマ、ニシン、マグロ、カレイ、ウナギなどの魚類と
干椎茸、キクラゲ、シメジなどの茸類、
鶏卵です。
そして、ビタミンDは皮膚で紫外線を浴びることにより作ることもできるので、ある程度の日光浴が必要なんです。
子どもにくる病が増えている話は、2015年5月7日の日経新聞にも載ってます。
くる病は栄養状態が悪い戦後まもなくの時期に、日照時間が短い北日本で多かったそうですが、最近また増えているんですね。考えられる原因としては、
1. 母乳中のビタミンDが少ない
2. 離乳食の遅れ(制限)
3. 紫外線対策をし過ぎる
があります。母乳は生後6ヶ月までは完全栄養で、子どもにそれ以外のものをあげる必要はないんですが、生後6ヶ月以降は鉄、カルシウムなどが成長に伴い母乳だけでは足りず、ビタミンDも同様に必要量が増すので食べ物から摂る必要があるんです。だから完全母乳栄養で離乳食がスムーズに行かない場合や、「アレルギーの予防として離乳食は遅い方がいい」という誤った考えをしているとくる病になるかもしれない。
(注1:授乳中の母がカルシウム摂取量を増やしても、母乳中のカルシウムは増えません。Laskey MA, Prentice A, Hanratty LA, et al : Bone changes after 3 mo of lactation : influence of calcium intake, breast-milk output, and vitamin D-receptor genotype. Am J Clin Nutr 67 : 685-692, 1998母がビタミンD欠乏症でなければ、たくさん摂っても母乳中のビタミンDは増えません。)
(注2:2歳まで母乳だけで育てるといいと提唱する人がいますが間違っています。栄養不足から成長に問題が出るかもしれませんし、食事制限はアレルギーの予防になりません。
食物アレルギーの発症と予知と予防 : 食物アレルギー診療ガイドライン2012 ダイジェスト版)
この記事は、母子手帳から日光浴の記載がなくなったせいでくる病が増えたのではないかと言ってます。私も乳児健診をしていて覚えがあるけれど、昔の母子手帳には
「日光浴をしていますか?」という欄があったんです。
……でも母子手帳、そんなに影響力ある?
実際に診療していると母子手帳にいろいろ役立つことが書いてあるのに、あまり読まれていないなあと感じてます。
この記事は少し昔に書かれているようで、紫外線が悪いものだから守りましょうという内容。UVケアグッズを宣伝してます。でも、実際に日本人が皮膚癌になる確率は白人の100分の1。
現代では、皮膚癌予防よりもアンチエイジングのために多くの大人がUVケアをしてますね。自分たちが紫外線対策をしているので、赤ちゃんにもしないといけないと考えられているんじゃないかなと私は感じます。
外来でよく「日焼け止めクリームって塗ってもいいですか?」って聞かれるし。
1998年以前、日焼けした肌は健康な証拠、日光浴をしましょう。
>1998年以降、紫外線の当たり過ぎはよくないのでUVケアしましょう。
>2000年以降、くる病が増えてきたのでやっぱり日に当たりましょう。(今ここ)
じゃあ、どのくらい紫外線を浴びたらいいかという話。
各種論文やサプリメントの会社はこれを参考にしているようです。長くて難しそうですが、キモはここ。
日本は南北に長いので、緯度の高い札幌の12月は紫外線量が少なく、正午でも1時間以上、日光浴の必要があります。那覇なら8分で充分。肌をどのくらい露出していなくてはいけないかというと約600cm2、大人の両手の甲と顔全体くらいの大きさで、もちろん日焼け止めを付けずに。
食事摂取基準の1日の目安量を摂って、このくらい紫外線に当たればいいということです。北日本の方々は、魚と茸を食べましょう。
栄養や紫外線ってまだまだわかっていないことがあり、◯◯を食べるといい、△△は
避けた方がいいという情報はしょっちゅう変わります。
子育て中の方は特に気を使いますが、ちょっと読んでおいてくださいね。