災害時の母と子の育児支援 共同特別委員会からこんなコメントが出ました。
「被災者の救援にあたっている方へ」
http://www.jalc-net.jp/hisai/hisai_genchistaff.pdf
ぜひ本文をお読みください。
赤ちゃんにとっても最良のものが、母乳であることはもちろんです。だから、このコメントはお母さんが赤ちゃんに母乳をあげることを軽視する人へ向けたもの、母乳をあげる環境を整える必要性を支援者に啓蒙するものだと受け取りたい。生理用ナプキンが女性にとって必要であるということを男性が理解していないと話題なので、増して母乳は…と思うからです。
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しかし、保護者にミルクをあげることを避ける、躊躇する、罪悪感を持たせるものになってしまってはもはや支援ではありませんね。私が気になったのはこの部分です。
人工乳が必要な赤ちゃんは病気になるリスクが高まるので、 よりきめ細やかなケアも必要です。母乳で育てているお母さんに、安易に人工乳を勧めない。むしろ、災害時に母乳で育てることのメリット を伝える。
母乳しかあげなかったら病気にならないというわけではありません。母乳が足りない時に人工乳をあげないと、水分不足、栄養不足に直結します。リスクが高まる以上の危険です。
母乳は授乳間隔が開いたり、赤ちゃんが飲みとりにくい姿勢であげたりすると良くないのです。具体的には乳汁が鬱滞して乳腺炎のリスクが上がったり、分泌量が少なくなったりします。だから支援する人は別室の用意は無理でもつい立、ケープ状の物でも用意する気遣いができたらお母さん達は助かるし、頻繁に臨時授乳スペースに行くことがしやすい環境ができたら理想的。
このコメントを現在、被災していて授乳中のお母さんたちは見ないほうがいいなと思ったのは、人工乳=悪という誤解を与えかねないからです。一番いいものは母乳です。しかし、足りなかったらミルクをあげるのをためらわないでほしいです。むしろあげてください。
幼児に例えると「バランスの良い食事を食べないと罹患率、将来の生活習慣病のリスクが高まるから、まあまあバランスが取れているとは言え、できあいのお弁当はあげないようにしましょう。」というのは、平時ならもちろん強調していい正論。でも限られたものしかない時に、敢えて手作りご飯の良さを言うのは支援ではありません。脱水や低血糖の方が心配です。ミルクをあげることをためらわないでください。
また、衛生状態を保てないから母乳の方がいいという意見もありますがもちろんです。
しかし、このYahoo!の記事は言い過ぎ。
熊本地震「賢い」支援をするために 善意を届ける前に考えてほしいこと(木村正人) - 個人 - Yahoo!ニュース
粉ミルクを配布するよりも、お母さん達の栄養状態を改善し、精神的なストレスを取り去り、マッサージ指導をするなどして、母乳が出続けるようにする方が、安全なのです。
それで一朝一夕に母乳の量が増え維持できるなら、日本のお母さん達がこんなに苦労していません。平時の栄養状態が問題ない時でも、ストレスを減らしても、マッサージをしても母乳はそうそう増えるものではありません。
また、病院の新生児室で哺乳瓶を消毒するのは、他のお子さんも同じ哺乳瓶を使うからです。自宅に帰ってからも煮沸消毒、電子レンジ消毒、塩素による消毒が必須かというとそうではないと思います。医学雑誌の特集号でも「消毒するのが望ましい」という書き方になっています。
私が書いた本も「生後3−4ヶ月くらいまで消毒した方が無難かもしれません」という言い方にしました。私は、哺乳瓶は、食器を洗う程度の清潔さでいいと考えます。哺乳瓶の消毒の是非を研究したものはないと思っていたらTwitterで教えていただきました。
@jasminjoy はじめましてこんにちは。去年子供が生まれたので哺乳瓶の消毒の根拠を探したのですが、唯一見つけた哺乳瓶の消毒についてのレポートがこれでした。査読論文誌でも正式な論文でもなさそうなのですが、洗剤で洗えばよいみたい。 https://t.co/yF2xFcuIV7
— k. hayashibe (@bay_san) 2016年4月20日
やはり食器を洗うようにでいいようです。確かにB型肝炎のキャリアの方が家族にいても、食器を毎回煮沸しないですね。大人よりも免疫力が弱い子どもであっても、本人しか使わない哺乳瓶を毎回、消毒する必要はないと思います。
哺乳瓶を洗うこともできない場合や、やっぱり洗うだけでは心配な人にはカップでの授乳法はどうでしょう。一度も見たことがないと、なかなかやる気にならないですね。
ぜひ一度見てみてください。でもカップも消毒はしていないんじゃないかな。
月齢が↑小さい子。
少し大きい子。↑テロップが入っていてわかりやすい。
母乳が足りないというサインは、一番わかりやすいのが尿量。良く飲めている新生児は1日に10回以上オムツを替える必要があります。秤があるなら1日に体重1kgあたり20-50gの尿量。
新生児が、1日に7回未満しかおしっこが出ていないのは母乳が足りていません。(秤があるならいつもの半分以下の重さ)
成長するにつれ膀胱に貯めることができ、濃縮能も上がり尿の回数は減って、2歳で1日平均6回くらいの尿量になります。乳児がいつもの半分以下しかオムツを替えていなかったらやはり母乳は足りていないでしょう。他にも脱水のサインは、大泉門が凹む、眼窩がくぼむ、皮膚の張りが減る(お腹をつまむとシワシワになる)、などです。そういう時はミルクを足してください。
母乳の後に足すのでも、ミルクだけあげるのでも、量は本人が満足するまでの自律哺乳です。
哺乳瓶でミルクをあげるには、確かに道具も水も燃料も必要。70℃以上のお湯で作らないと粉ミルクの製造過程で混入することがゼロにはできないサカザキ菌、開封後に混入する可能性のあるサルモネラ菌感染の危険があります。こんな時に本当は液体になって売ってるミルクがあったら、道具が少なくて便利なんですよね。日本以外の国では普通に売っています。
末尾さんのまとめがとってもいいので貼っておきます。日本では今、認可されていないのです。私も東日本大震災の時に署名しました。
一刻も早く、熊本や大分で被災された方々が落ち着いた生活に戻れますように。
4月21日追記:医中誌で調べたら哺乳瓶消毒の文献は幾つもありました。
抄録が付いていたのはこちら。アメリカでの哺乳瓶の取り扱いは、やはり食器と同等でよいとされているんですって。周産期医学特集号は3-4か月、6か月までって医者が書いているんだけど、慣習をそのまま載せているんでしょうね。アカデミックな話ではない。
いつも勉強になるチャイルドヘルスは↓買おうと思います。一般誌だから手に入りやすいです。