母乳は確かにすばらしい。6ヶ月未満の子どもは母乳以外のものを飲む必要がありません。
完全栄養だし、9割近くが水なので喉が渇いた時でも白湯やお茶を上げる必要もありません。
感染予防にもなります。発展途上国だけでなく先進国の中産階級でさえ母乳栄養の子は罹患率、
入院率が共に低いことがわかっています。一時期日本でも「むしろミルクのほうが栄養価が高い」
と考えられていたことがあるけれど、それは違います。カロリー、乳糖、タンパク質、脂質を可能
な限り母乳に近づけているのが粉ミルク。栄養価はほとんど母乳と変わりません。
母乳をあげていると食べられないもの、飲めない薬があると考える人が多いけれど、実際には
食物はなんであれ食べて構わないし、ほとんどの薬は飲めます(詳しくは拙著をご覧ください)。
p32から嗜好品と薬について書いてます。
小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK‐間違った助言や迷信に悩まされないために
- 作者: 森戸やすみ
- 出版社/メーカー: メタモル出版
- 発売日: 2012/12/22
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しかし、こういうことが起こってしまいました。
ネット販売で母乳を買ったのはお子さんのために少しでもいいものをというよりは、母乳で
なくてはいけないと思い詰めた女性なんだと思います。産んでしばらくは体の疲労、初めての
子育ての緊張、そして元々母親はなんでも「自分のせいではないか」と考えてしまうものなのです。
だから私も、何でも母のせいにしがちってハッシュタグを作ったくらい。
彼女も平素なら思い詰めなかったかもしれないし、自分の事ならもっと客観的になれたかも。
http://mainichi.jp/shimen/news/20150703ddm041040080000c.html
この↑記事にある「1歳までは母乳以外のものを与えてはいけない」という説は間違い。
5-6ヶ月以降になると子どもの成長に伴い、栄養素が母乳だけでは不足するため離乳食を始める
必要があります。低身長の原因になったり、各種栄養素の欠乏症になったりする恐れがあります。
ハーブティーは医薬品医療機器等法(旧薬事法)により母乳を増やす効果があることを明示し
てはいけません。健康食品のように購入者が効果があるような誤解を生む表現をしているのだと
思います。母乳マッサージも母乳を増やすものではありません。日本ラクテーション協会も
国際ラクテーション協会も推奨していないはず。
母乳の有無が生命予後に切実に関与する子がいます。私がNICUで働いていた時に受け持った
とても早期に生まれたお子さんや週数の割にとても小さかったお子さん、腸の病気を持つお子さん、
そういう子にとっては本当に母乳は命綱ですが、特別な理由のないお子さんはミルクでもちゃんと
育ちます。もちろん。
日本でも母乳バンクを普及させようという動きがあります。ヨーロッパ諸国、北米、南米諸国、
インド、中国、フィリピン、オーストラリア、南アフリカには母乳バンクがあるそう。
私はコストとベネフィットを考えると日本に必要だろうかと思います。未熟児や病気を持つお子さん
には必須だけれど、満期産で生まれて健康な子がそこまで母乳に拘る理由があるんだろうか?
母乳提供者の感染症や常用薬、飲酒、厳格な菜食主義者ではないかどうか等、検査しないと
いけないし、衛生的に保管、配送するのに一体いくら掛かるのか???上記の記事ではアメリカ
では100mlあたり1800円だそう。月齢によるけれど赤ちゃん、800ml飲みます。毎日。
健康保険、利用できません。一方、乳幼児死亡率は世界一低い日本、母乳以外の感染予防策も
診断・治療技術も世界一充実しているんです。
今年の5月の記事ですが、ボディビルダーが筋肉増強のために母乳を飲むって…、「感染症が
怖い」、「気持ち悪い」という意見があるそうだけど、私もそう思う。おぇ。
そう思っていたところ、ハフィントン・ポスト日本版にツイートを採用されました。
本当に母乳礼賛しすぎは、母を追い詰めるだけで母児の心身ともの健康によくないです。
母乳だけが母の役割だけじゃない。毎日、お子さんを気にかけて世話をしているあなたは、
もう、とっても良いお母さんです。