『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』を読んで
とてもいろいろなことを考えさせる面白い本だったので、感想をシェアしてオススメします。
『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』栗田シメイ著、毎日新聞出版
毎日新聞出版の本書の紹介はこんな感じ
「東京渋谷区の一等地に、とんでもないマンションがある―」
すべては、一本の電話から始まった!
マンション自治を取り戻すべく立ち上がった住民たちの闘争1200日
新宿駅からわずか2駅、最寄り駅から徒歩4分。都心の人気のヴィンテージマンションシリーズにもかかわらず、相場に比べて格段に安価なマンションがあった。その理由は、30年近くにわたる一部の理事たちによる"独裁"管理とそこで強制される大量の謎ルールにあった。身内や知人を宿泊させると「転入出金」として1万円の支払い、平日17時以降、土日は介護事業者やベビーシッターが出入りできない、ウーバーイーツ禁止、購入の際の管理組合との面接......など。過去、反対運動が潰された経緯もあり住民たちの間に諦めムードが漂うなか、新たに立ち上がった人たちがいた!! 唯一の闘いのカギは「過半数の委任状集めること」。正攻法で闘うことを決め、少しずつ仲間を増やしていくが、闘いは苦難の連続だった......。マンションに自治を取り戻すべく立ち上がった住民たちのおよそ4年にわたる闘いをつぶさに描いたルポルタージュ。
もう、これだけで興味深いですね。
即、御茶ノ水の丸善で買い、なんで平積みになっていなかったのかなと思うくらい面白かったので、一気読みしました。
あちこちで言われていますが、民主主義についての示唆に富んだ内容です。
そもそも秀和レジデンスというマンションシリーズは、1964年に竣工した全国に134棟あるマンション。
創業者である小林茂さんが、住宅ローン制度や管理組合を作ったそうです。
私もマンションの理事は順番に回って来るので何回か経験しています。
戸建てにしか住んだことのない人のために、少し説明するとマンションの管理組合は、住んでいる人たちのために共用部分を維持、管理するもの。
管理会社とやり取りして管理人さんを頼んだり、管理費や修繕積立金を管理したり、エレベーターなどのマンション設備、植栽、駐車場他のメンテナンスのことを相談して決めます。
年に1回定期総会があるほか、区分所有者の1/5の賛成があれば臨時総会を開きます。
毎年、理事は全員が入れ替わったり、任期が2年で1年で半分ずつ入れ替わったりしますね。
そして、私が理事をしたときには理事長や副理事長は、その場の雰囲気で決まりました。
だから秀和幡ヶ谷レジデンスでは、25年近く理事や理事長が固定だということにまず驚きました。
理事の仕事はそれほど大変なことではないけれど、時間を取られるし面倒なので、誰かがやってくれるなら任せたいと思う人が多いでしょう。
「マンションを買うときには、管理会社が大事」とか「管理組合や管理会社がちゃんとしているか確かめないといけない」とは聞いたことがありますよね。
管理費や修繕積立金の滞納があるかどうかかなというくらいの認識しか、私にはなかったけれどそれだけではないんですね。
それから、マンションは管理会社に管理全般を委託するのが一般的だけれど、ここは主に管理組合の自主管理が行われています。
うまく回っていればいいんでしょうけれど、良い人が理事のときには良い管理、悪い人が理事になったら悪い管理になる可能性が高くて怖いなと思います。
以下、ネタバレを含むので、未読の方はぜひ先にお読みください。
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秀和幡ヶ谷レジデンスは約300戸の大型マンションで、約25年間理事は同じ人達。
他のマンションにはないような数多くの理不尽なルールがあるものの、ほとんどの人住民は無関心でした。
2018年、管理費の値上げをきっかけに理事会は、一部の住民の注目を浴びるようになります。
理事会のやり方はおかしいと声を上げる人、その人達を攻撃する理事会、立ち上がってグループを作り現状を改善しようとする人、そのグループ中で意見の相違による対立や離散。
グループは友の会、有志の会、秀和幡ヶ谷レジデンスをより良くする会(より良く会)という変遷を経ていきます。
300世帯もの大型マンションだと、自治は大変。
理事会のやり方、恐怖政治でまとめ上げるのは簡単だけれど、各々の意見を聞いて、総意は無理としても過半数の承諾を得るというのは時間と手間のコストがかかります。
筆者の栗田シメイさんが、住民たち各人の背景や考えを詳細に描いているので、感情移入をして応援しながら読みました。
吉野(仮名)理事長が、強権を振るっているわけだけれど、本人は良かれと思ってやっていたんですって。
(でもそしたら息子のいるコンビニが潤うように、マンション管理人へのおせち料理をそこに注文するかなあ?)
良かれと思っていたとしても、泊まりに来た住民の身内や知人から1万円を取ったら、それをちゃんと記載して、公開してほしいけれどしていない。
p.074 78万円の工事費に対して1700万円の支払い、台風で割れたガラス2枚に対して500万円の修理費っておかしすぎる。
理事たちに支払われる報酬は微々たるものだそう。
だから、長期政権を維持する動機は、謎ルールで支配欲を満たすくらい?
でも、このマンションの総会議事録では、発言が正しく記載されていなかったり、未だに帳簿の開示がされていなかったりするんですね。
理事長1人を矢面に立たせて、実は他の理事たちが表に出せないことをやっていたのではないかという意見がTwitterにありました。
うーん、そうかも。
【インタビュー田原町16】『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』を書いた栗田シメイさんにきく – Readin’ Writin’ BOOKSTORE
先日、こういうイベントに行ってきました。
著者の栗田さんは男性でした。著者と向かい合ってインタビュー、進行をしていたのは朝山実さん。
この本を書くにあたり、事象として個々人を糾弾したり、単純な勧善懲悪の話にしたりはしたくなかったそう。
発売数日で重版がかかり、現在1万部は出ているそうですが、会場には未読の人が半分くらいいました。
今は手に入りにくいそうだけど、みなさん参加してみてぜひ読みたいと言っていました。
そして、現在もまだ秀和幡ヶ谷レジデンスに加え、吉野さん(仮名)が同じく理事長をしているダイアパレス白子第2も係争中。
秀和幡ヶ谷レジデンスの理事会は一新されたけれど、金銭的なことがまだ片付いていません。
本を書くことで、住民の方たちの努力が水泡に帰することは避けたかったので、敢えて書かなかったことがあるそうです。
そのため、いろいろなことが解決したら、増補版を期待しますと司会進行をしていた朝山さんも言っていました。
私もぜひ次の本を待っているし、他の理事たちについても描いてほしいと思います。
吉野理事長の暴走を近くで見ていてどう感じていたのか、住民からの批判を受けて個人攻撃をするときやりすぎかなという気持ちはなかったのか。
おそらく彼らにも言い分があるはず。
約25年も理事を続け、湧き上がった住民の不満も抑え続けられたので、本当に直前まで危機感はなかったのか。
初めは批判や不満をぶつけてくるのは個人だったので、怒りや相手が間違っていると思えばこその懲罰的態度だったでしょう。
反発してくる住民がグループになり、匿名だった活動が名前を出すようになり、毎年の総会に出席者が増えてきたとき、
大人数が入れるように例年とは違う京王プラザホテルを総会のために予約したとき、弁護士の同席を求めたときには、
自分たちが解任されると思っていなかったのでしょうか。
このマンションは通称「渋谷の北朝鮮」だったわけだけれど、本家の北朝鮮や中国では理事の立候補や投票があるのかと疑問が湧きました。
伝え聞くところで中国都市部は、戸建てはなくみんなマンション住まいのよう。
本書には「こんなに民主的でないなんて!」という言葉が出てくるんだけれど、一党独裁の国ではマンションに多数決とか投票による自治があるのだろうか。
「より良く会」の人たちの苦闘をぜひ、読んで知ってほしいです。