出産にまつわる諸問題

先日の記事↓に、現在の周産期の問題を指摘するコメントを「あらすからっこ。」さんから頂いたので、コメント欄ではなくブログentryでお答えしようとお見ます。

yasumi-08.hatenablog.com

あらすからっこ。

はじめまして。
3人の男の子の母親です。(うち1人はポッターだったので、今は天国にいます。)
2人目を妊娠中に、完全母乳とカンガルーケアが原因で発達障害になる恐れがあるという記事を読みました。
そのためにバース・プランに「母乳育児にこだわりはないので、赤ちゃんがお腹を空かせないよう十分なミルクを飲ませたい」と書きましたが、助産師さんから母乳の良さを教えられるばかりで聞き入れては頂けませんでした。(3人目は別の病院で出産しました。)
2人目の産婦人科は綺麗でお料理が豪華なことで有名でしたが、その豪華なお料理は母乳に悪いから食べないほうがいいと言われたり(母乳に悪いという食べ物があるのなら、何故そのような食事を提供するのでしょうね?)、いろいろと残念でした。

もうひとつ不思議だった事は、トコちゃんベルトについてです。
産婦人科で薦められたり購入できるベルトはトコちゃんベルトが有名だと思うのですが、胎嚢や子宮の形が細長くいびつな形の人は、トコちゃんベルトを使用しなければ、産まれてくる赤ちゃんが育てにくい子になる(育てにくい子というのは、眠らずよく泣き、身体を反らせ、左右の目の大きさが違う…という子だそうです)という話を聞きました。
個人的に、赤ちゃんがよく泣き身体を反らせること、左右の目の大きさがほんの少し違う事くらいは普通の事だと思うのですが、同じ産婦人科で知り合ったママ友はトコちゃんベルトを購入すべきか、市販のもっと安いベルトにするかですごく悩んでいました。
母親たちが求めているのは「正しい情報」ですが、病院から正しい情報を得られない事を残念に思います。

母乳について悩んでいた3人のママ友に、こちらのブログを紹介しました。
私自身も、もっと早くこのブログを読むことができていればと思います。
これからも更新を楽しみにしています。

 

まずはカンガルーケア。久保田史郎医師のカンガルーケアで発達障害が増えたというネットの記事をお読みになったんでしょうか?カンガルーケアに注意/久保田産婦人科彼は発達障害自閉症が昔はなかった、近年とても患者さんが増えていることカンガルーケアの増加が一致していると言っています。しかし、その2つが因果関係があるとは言えません。

 

低血糖、低体温、重症黄疸が新生児にとってよくないことは言うまでもありません。一方、発達障害は原因がわからない疾患群です。低血糖低血糖脳症を、低体温は低体温性の脳障害を、重症黄疸は核黄疸を引き起こしそれぞれお子さんの成長発達に影響しますが、それは発達障害とは別の疾患です。

発達障害というものがあるんだと全国的に認知されてきたので、診断される数も増えたんじゃないでしょうか。認知度の上昇と過剰診断は精神疾患に限らずなんでもあります。

久保田医師は「昔、日本には発達障害児自閉症)はほとんどいなかった。それは産湯(保温)と乳母(人工乳)で赤ちゃんの低体温症と低血糖症を防いでいたからと推測される。」、「赤ちゃんを低血糖症発達障害)から守る為には」って書いていて相関関係と因果関係を混同しています

 

出産にまつわるトラブルで後遺症が残った患者さんは、昔のほうが多かったでしょう。私は療養型の病院に数ヶ月、勤務したことがあり60-70代の患者さんがどういう転機で入所したのか古いカルテを読みました。自宅で出生した後に破傷風に罹患や核黄疸など現在では考えられないような周産期のトラブルが多く、それ以来ずっと重症心身障害児・障害者として入所していらっしゃる方達がいました。

 

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これは日本の乳児死亡率推移。乳児は1歳未満、新生児は生後1ヶ月未満、早期新生児は生後1週間未満の子を指します。乳児、新生児、早期新生児とも死亡数が激減しています。別の統計では、2013年は25.1%の乳児が、周産期つまりお産の前後のことが原因で亡くなっています。昔の割合はわからないけれど、死亡総数がこれだけ多かったので、お産前後の病態が原因で亡くなる/後遺症を持つ人は現在よりも多かったでしょう。診療技術の向上と病院での出産が増えて、死亡数とともに後遺症を残すような分娩時のトラブルも減っているんですね。

 

あらすからっこ。さんがおっしゃるカンガルーケアが怖いので完全母乳栄養にこだわらないというのは、低血糖や脱水が心配だからミルクもほしがったらあげたかったということだと思います。そこで、助産師が自分の意見を押し通したことは残念です。きちんとモニタリングするから大丈夫だと説明したり、あらすかっこ。さんの意見を充分聞いて双方が納得する授乳のしかたにしたりすべきでした。

 

 

 いまだにBaby Friendly Hospitalでさえ、高脂肪のもの食べると乳管が詰まって乳腺炎になると誤解している医師、助産師が多いので、あらすからっこ。さんの産科のように食事を提供しておいて「食べないで」みたいなおかしなことになるんです。

smilehug.exblog.jp

親しくしてもらっている戸田先生↑のブログ。

 

 

 そして最後の大問題はトコちゃんベルト。以前にTwitterで別の人からこのページを教えてもらっていたので、彼らがそう宣伝しているのを知っています。2ページ目のエコー写真。

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http://tocochan.jp/images/pdf_pamphlet/easygoing_baby.pdf

これは複数の産婦人科医に見せたら大笑いしていました。胎嚢のように身体の奥にあるものがベルトの固定で形を変えることはありません。エコーでは立体を平面断にして見るから、プローベのあて方で真ん丸に見えたり楕円に見えたりします。でもそれは、トコちゃんベルトのおかげではありません。産前産後の腰痛のためにはいいらしいので、早産の予防や胎胞の形の矯正みたいな効果がないものよりも、本来の目的で使うのはいいです。あらすからっこ。さんの言うように人間は完全に左右対称ではないですもんね。

他にもこの広告にあるような、赤ちゃんの胎内での姿勢と育てやすさは関係がありません。

 

 

本当にどこで誰に聞けば医学的に正しい情報が得られるのかは、とても難しい問題です。

健診で行った市役所で栄養士が「授乳中は和食の粗食で」とか、保健師が「赤ちゃんの衣服は別にして専用の石鹸で手洗い」なんてなんの根拠もない個人的な考えをエビデンスのあることのように言います。医師も「お母さんの関わり方が悪いから発語がない。」等と言うこともあります。

日本の出産と赤ちゃんにまつわる諸問題は、まだ発展途上。また、刻々と正しいとされることは変わります。一緒に勉強していきましょう。

 

 

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