ワクチンを混ぜて打ってはいけません

先日、品川区でワクチンを混ぜて打った医師がいた、区が確認できるだけで358人だというニュースが話題になりました。この記事がとても参考になります。

 

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多くの患者さんには区から連絡がすでに行っているようですが、もしかしたらという方は母子手帳のワクチン欄を確認してみてください。

東京都23区は、他の区でも定期予防接種が受けられるので、他の区在住で当該クリニックで予防接種を受けている子がいるかもしれません。任意接種だと23区外だったり、他の県からでもワクチンを受けに来る子がいたそうです。

品川区東五反田の「ケルビムこどもクリニック」という名前がワクチン欄にあったらどうしたらいいか、品川区のホームページに区としての対応と連絡先が載っています。

品川区内の医療機関で誤った方法で行われていた予防接種について|品川区

 

 

しかし、わからないのが、この医師がなぜワクチンを混ぜて打ったかです。

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MMRVを自分で作って打っていたことです。麻疹、おたふく風邪、風疹、水痘です。MRワクチンは、注射用水と別のバイヤルに入っていています。

 

 

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左の注射用水をシリンジで0.7ml吸って、右のワクチンを固めた粉に入れます。そして、溶けたものを0.5ml吸ったら針を変えて患者さんに打ちます。

針を替えるのはバイヤルのゴムを刺しているからキレが悪くなり、痛いんじゃないかという気遣いからです。替えない医療機関もあると思います。

 

 

 

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それをこれの他にも……

 

 

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この2つでも行い、3ヶ所に打ちます。同じ日に複数のワクチンを接種することを同時接種と言いますが、海外では20年以上前から行われていた普通のことです。3本打つのがかわいそうだったから、混ぜて打ったと院長は言っているようです。でも、四肢の同じところに打つとしても、つまり左腕に2-3本打つとしても2.5-3cm離せば効果や副反応は問題ありません。

問題の院長は、注射用水0.7mlで3本分のワクチンを溶かしたんでしょうか?それともそれぞれ0.7mlずつで溶かしてそれを合計1.5ml、一本のシリンジで吸って打ったんでしょうか?

報道を見てもそれは不明ですが、注射の痛さは針の太さ、注射液のpH、浸透圧、量によって決まります。一般的にシナジスなど量の多い注射が1mlを超える場合は、2本のシリンジに分けて打ちます。1.5mlを打たれるよりは普通に0.5mlを3回打った方が痛くなかったんじゃないかなあ?

 

 

 

 

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この医師が顧問をしている(していた?)グラクソスミスクラインにはプリオリックス・テトラという商品名のMMRVワクチンがあります。これはもちろん治験をして安全性と効果を確認済みです。日本は承認していないので、医師が個人輸入しているクリニックでのみ接種できます。これを勝手に自分で作ってはいけません。

 

 

冒頭のバズフィードの記事に、感染症専門家の森内先生のどうして勝手に混ぜて打ってはいけないのかについて、解説が載っています。

例えれば、居酒屋でビールやワインや焼酎をそれぞれ飲むのには問題がないと思いますが、あらかじめ全て混ぜてから飲むと全く違う、気持ち悪い飲み物になってしまうようなものです

 

ワクチンは腐るのを防いだり、性質を安定させるために、厳しい成分管理の下、様々な条件を揃えて作られ、膨大な人数の臨床試験(治験)や市販後の調査で安全性や有効性を担保しています。ところが、混ぜると酸性度や浸透圧などに何らかの変化が加わる可能性があり、全くデータのない混合物を使うことになります

とてもわかりやすい例えですね。ワクチンは種々の検査を受けています。安全性と効果が確かめられた方法で打たないと、その安全性と効果が予測できないんです。

 

以前に全く同じケースがありました。北区の医師がやはりMMRVを自分で作って使用し、問題になりました。全てのワクチンを混ぜて0.5mlにしたようです。北区が接種を受けた子の抗体価を測ったところ、このようでした。

 

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http://machim.jpubb.com/press/1093328/

北区のページに詳しいですが、やはり期待したほどの抗体価の上昇はなく、北区は希望者に再び各ワクチンの接種をしたようです。

 

 

うちのナースや事務さんと、お母さんお父さんの自衛手段として何ができるかと話しました。まず、「ワクチンは混ぜて打つものではない」という認識を持つことが大事ですね。医師がやっているとそうやって打つものなんだなと思ってしまうかもしれないです。そして、何をどうやって打つか私のクリニックでは保護者の方に直前に確認してもらっていますが、あまりみなさんよく見ていない。なので、ワクチンの名前、有効期限、量はよく見てください。

 

それと、海外で広く使われているワクチンにはこういった混合ワクチンが他にもあります。Priorix-TetraはMMRVの4種混合ですが、InfanrixというDTPとポリオ、Hibの5種混合、それにB型肝炎を加えたInfanrix HEXAという6種混合ワクチンもあります。当然、子どもは刺される回数が少なく、保護者は医療機関に連れて行く機会が減り、受け忘れも防止できてとても有効です。日本ではこういったものは、日本で治験をし直すなどしないと承認されないし、国産ワクチンの確保が大事だということなのかそもそも国は積極的ではありません。サノフィが2020年までに5種混合発売を目指すとか、国内でも混合ワクチンの開発は進めるなどしていますが、早くしてほしいですね。

 

母子手帳にも予防接種情報のサイトにもそこまで初歩的なことは説明していません。大事なことなので繰り返します。ワクチンは混ぜて打つものではない」ということを覚えておいてくださいね。