困った”指導”

どうしてトンデモ指導やニセ医学がなくならないかなっていうのは、先週も記事にしたんだけど、

yasumi-08.hatenablog.com

 

今日は、小児科医が実際に診療していて出会った困った”指導”を紹介します。

 

1. 市が委嘱している訪問助産、生後1ヶ月前後で家に来る人ですね。

37週で出生したお子さんに、BCGは予定日から数えた修正3ヶ月になってから受けるようにそしてヒブと肺炎球菌ワクチンはBCGの後に受けるように言った事例。

もっと週数が早く生まれたお子さんもそうなんですが、未熟性が残るからといって予防接種は修正月齢で行う必要はありません。お母さんから離れてしまうと胎内でもらった免疫は下がる一方。むしろ早めにワクチンを打ったほうがいいくらいなので、この”指導”は間違い。次のヒブと肺炎球菌ワクチンがなぜBCGよりも後がいいのかは、お母さんへの説明がなかったそうだけど、私にも意義がわかりません。BCGは生ワクチンなので、日本では28日あけないと他のワクチンが打てない上、私が診療している地域では集団接種。何年の何月~何月生まれの子は、この日に保健センターに来てくださいというように、一斉に受けるので人によって何ヶ月になるかは多少違います。ヒブと肺炎球菌ワクチンは生後2ヶ月から開始で、7日経てば他のワクチンが打てます。BCGを待つ必要は全くない。このケースは酷いので保健センターに病院として、こういうことを言ってもらっては困りますと電話を入れました。

委嘱助産師を統括する保健師によるとその助産師が個人的な考えを話したそうで、あまりにも基本的なことは年に数回ある研修でも教えていないとのこと。その助産師にとっては基本的でなかったんで、再確認してもらいました。

 

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2. ある市で生後1ヶ月前後で訪問してきた助産が、

赤ちゃんが太りすぎているから、ミルクを減らしなさい。一日に20g増えていればいいところを50g増えているからと言った事例。

確かに20g増えていればいいけれど、よく増えているお子さんにダイエットをさせる必要はありません。家に赤ちゃん用の体重計があるお家はあまりないですね。体重のチェックをこまめにできないのに闇雲にミルクを制限してはいけません。再度、その助産師が訪問する話もなく、小児科受診を促すこともなかったそう。無責任だと言わざるをえない。

 

 

3. 別の市で、やはり訪問助産が、

体重が増えすぎだからミルクを減らしなさい、あごに乳児湿疹ができているのは胃に負担がかかっているということだから、母乳も飲ませすぎないように、お母さんが粗食にしなさいと言った事例。

この助産師は、乳児湿疹の成因は理解しているのでしょうか。 

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76ページを見て下さい。乳児湿疹は原因の多くが赤ちゃんのホルモンによるものです。胃に負担がかかってできるわけではないし、お母さんが粗食にしてもなんの関係もありません。

 

 

4. 開業助産師が自身の母乳相談室で

赤ちゃんの体重が増えすぎだからミルクを薄めなさいと言った事例。

ミルクは適正な濃度でないとダメ。極端に薄いミルクを長期に飲ませると水中毒が心配です。 

 

 

5. 別の母乳マッサージを行う助産で、

「こんなに体重が増えていると1ヶ月健診の時に小児科医に叱られる。ミルクを減らしたら?」と言われた。実際には1.6kgの増加だった。

小児科医、叱りません。でも確かに変な”指導”をするのは助産師だけでなく、小児科医の中にもいます。でも、そんなふうにひとからげにして言われるとなんだかなあ。この助産師はどのくらい増えたら生後1ヶ月の子どもが過体重だと思っているんだろう?1ヶ月健診時の体重増加は、700gくらいの子もいれば2kg以上の子もいます。3kg前後で生まれる赤ちゃんにとっては、とても大きな差です。

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112ページを見てください。乳児期(1歳未満)の肥満は成人肥満につながりにくく、治療は不要とする文献もあります。特に初めの1ヶ月は成長曲線の勾配が大きくものすごく成長する時期。その間に万が一、栄養不足になって将来の成長発達に影響が出たらどうするのか?

 

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こういった変な”指導”があると、不安にさせられたお母さんたちに小児科医が説明しなくちゃいけないし、最前の話のようにやめるよう申し入れをすることがあり、要するに他人に仕事を増やします。実際には指導というよりも根拠のない個人的な考えや思い込みの押し付けなので、本当にやめてほしいと思います。困った開業助産師は問題ですが、通う人が減ったら自業自得。

しかし、訪問助産師は市の税金を使った事業です。却って不安にさせてどうする?

(#・∀・)そういうわけで皆さん、自衛が必要なので特に珍説、迷信、噂、都市伝説の多い母乳に関しては私と宋美玄先生の新刊をお読み下さいね。

 

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